松浦 純生 MATSUURA Sumio 
−Topics−


■ 傾斜地変動の素因

■ 傾斜地変動対策技術

  1. PC杭を用いた抑止工
  2. 大口径鋼菅杭の施工
  3. 地震で破壊されたアンカー工
  4. 地熱地帯におけるアンカー工の施工
  5. クラムシェルによる集水井の掘削
  6. 地震で破壊された集水井
  7. 在来工法による排水トンネル技術
  8. NATMによる排水トンネル技術
  9. へさき型地すべり導流堤
  10. 地すべり排水トンネルの長寿命化
  11. 大口径掘進掘削工法


1.PC杭を用いた抑止工(静岡市清水区由比地区) 

 
地すべりを止めるために、最初は松材、とくに耐腐朽性が高い松の心材を使った杭工が施工されていました。しかし、一般に地すべりは深い所からすべる上に推力が大きく、ほとんど効果はありませんでした。次に試みられたのがPC杭です。 しかし、これでも規模の大きい地すべりを止めることはできず、昭和50年代から鋼管杭に取って代わられました。


2.大口径鋼菅杭の施工(大分県由布市湯平倉本地区) 

 
杭工は斜面地盤に杭を挿入し、地すべりが移動しようとする力に抵抗させることを目的とした工法です。かつてはPC杭なども使われましたが、現在では鋼管杭が一般的となっています。写真は現場に搬入された大口径の遠心力鋳鋼管で、120トンクレーンでつり下げられた後、つなぎ合わせて約80mの杭にし、ダウンザホールハンマーで削孔された孔内に設置されました。


3.地震で破壊されたアンカー工(岩手県奥州市水沢区胆沢地区) 

 
地震時には大きな外力が働き、地中構造物を破壊することがあります。岩手・宮城南部地震では集水井や排水トンネルなど、数多くの地すべり対策工が破壊されました。写真はアンカー引っ張り部が破断され、アンカーキャップから大きく飛び出したテンドンと呼ばれるPC鋼より線です。写真は現場に搬入された大口径の遠心力鋳鋼管で、120トンクレーンでつり下げられた後、つなぎ合わせて約80mの杭にし、ダウンザホールハンマーで削孔された孔内に設置されました。


4.地熱地帯におけるアンカー工の施工(岩手県雫石町西根地区) 

 
地熱地帯でアンカー工を施工する場合、酸性の地下水や火山性ガスなどによって、しばしば鋼製のより線が急速に腐食する場合があります。このため、PC鋼より線の代わりに、炭素繊維と熱硬化性樹脂を複合化した、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)より線を使います。 CFRPより線は軽量で作業性が高い長所を持ちますが、コストが高い欠点があります。


5.クラムシェルによる集水井の掘削(岩手県一関市岡山地区) 

 
集水井の掘削には人力、発破、バックホウなどによる方法がありますが、かつては掘削した土砂を2本溝リフトなどで排土していました。最近では、掘削と排土が同時に可能なクラムシェルによる施工が一般的になっています。 この重機の使用によって作業工程が大幅に簡素化され、工期の短縮が実現しました。


6.地震で破壊された集水井(岩手県奥州市水沢区) 

 
これまで、再活動型の地すべりは地震によって移動することはほとんどないと考えられていました。しかし、2004年の中越地震では多くの地すべりが再移動し、この定説が覆されます。そして、岩手・宮城内陸地震でも数多くの対策工が被災しました。 写真は旧すべり面付近でせん断されたライナープレートの集水井です。


7.鋼アーチ支保工と覆工による従来型排水トンネルの施工例
(山形県大蔵村銅山川地すべり) 

 
規模が大きく地下水が豊富な地すべりでは、地下水排除工などの抑制工に頼らざるを得ません。その場合、集水井やディープウェルなどで集めた地下水を地すべり地外に排出するため、 トンネルを掘削することがあります。各種の施工法がありますが、現在でも、鋼アーチ支保工と木製矢板、ライナープレート覆工などによる伝統的な在来工法が用いられることがあります。


8.NATMによる排水トンネルの施工例(山形県米沢市蟹が沢地区) 

 
ロックボルトと吹き付けコンクリートで地山のもつアーチ作用などを積極的に利用するNATM(New Austrian Tunneling Method)は、工期も短く経済性も良いことから道路や鉄道トンネルの掘削に広く用いられてきました。技術の進歩等により、 最近では上半半径1.55mの掘削も可能となり、地すべりの排水トンネルの掘削に採用される場合が多くなっています。


9.へさき型地すべり導流堤(ノルウェーロエスグランダ) 

 
ノルウェーには、クイッククレイと呼ばれる特殊な粘土が広く分布しています。この粘土は河川の浸食や交通振動などにより、容易に流動化し長距離にわたり流下する特徴をもちます。早い速度で移動するものの、粘土が主体のため、巨礫が先頭に密集する土石流のような破壊力はありません。 このため、船の「へさき」に似た形状を持つ導流堤を建設し、流動化した地すべりを安全な場所に流す対策がとられています。


10.NATM工法を応用し在来工法で建設した地すべり排水トンネルを改良した事例
(長崎県佐世保市江迎町鷲尾岳地区) 

 
地すべり排水トンネルは、鋼アーチ支保工と矢板の組み合わせによる従来工法を多用していました。 しかし、地すべりという過酷な環境下では変形や経年劣化が著しく進行することがあり、排水機能を確保するために維持・管理がかかせません。老朽化が進んだ本排水トンネルではNATM工法を応用し、 在来工法で建設したトンネルの長寿命化を図りました。


11.集水井から施工中の大口径集水ボ―リング工(新潟県糸魚川市大所木地屋地区) 

 
地すべり発生の原因となる地下水が特定の箇所に多量に賦存する場合、従来の集水ボーリングでは口径が小さいので捌けきれないことがあります。このため、都市域で水道やガス管などを敷設するために開発された、 大口径掘進掘削工法が用いられるようになってきました。これは、掘削と同時に口径300〜600mmの集・排水管を打設する工法で、孔曲がりの修正が可能なため一定以上の施工精度が確保できるとともに、 多量の地下水を集め排除することが可能となります。