傾斜地保全研究分野 Slope Conservation Section, Research groupe of geohazards.

研究内容

【1】温暖化に伴う極端な気象現象が山地の土砂災害発生危険度に及ぼす影響

 温暖化の進行によって降水(雨・雪)の量や強度,分布などが変化し,その結果,崩壊や地すべりなどの土砂災害の種類や規模,発生危険度なども大きな影響を受けると考えられます。このため,本分野では降雨を誘因とした土砂災害
はもちろんのこと,温暖化によって大きな影響を受けると予想される積雪地帯の土砂災害についても,発生機構の解明や影響評価の研究に取り組むつもりです。                                    

 
      
   台風12号による豪雨により発生した深層崩壊
    (奈良県十津川、赤谷、平成23.9)
     
    豪雨によって発生した地すべり
  (沖縄県中城村、北上原、平成18.6)

   

【2】複合型災害の発生機構の解明と危険度の評価

近年、地震と豪雨、豪雪など、複数の誘因が関与して土砂災害が発生するケースが増えています。例えば、平成16年には台風23号の通過後に新潟県中越地震が発生し、約3,000箇所もの土砂災害が発生しました。また、平成23年には長野県北部地震が発生し、深い積雪層で覆われた山間地で雪と土砂の特異な相互作用が見られています。しかし、いずれも詳しいメカニズムは分かっていません。このため、本分野では複数の誘因がからんだ、いわゆる「複合型災害」の発生機構の解明に取り組みたいと考えています。
    
 新潟県中越地震によって崩壊した土砂と倒壊した家屋
   (新潟県長岡市山古志、平成16.10)
      
   空気と雪粒子の混合層によって 倒伏した樹木
       (新潟県津南町辰口、平成23.3)


【3】表層崩壊の発生メカニズムの解明と予測技術の開発

 降雨が浸透するのに伴い、斜面の内部では地下水の流れる方向が様々に変化します。これにより、山を崩そうとする方向へかかる力(浸透力)が変化し、崩壊の発生に大きく影響してきます。 そこで、このような地下水の流れをリアルタイムで可視化できれば、これまで困難であった崩壊発生の時刻を予測することが可能になるかもしれません。
通常、斜面崩壊の監視では、目視または水や地盤の変動を直接計測するための多くの機器を斜面に設置します。そして、それらの動態をモニタリングすることで、比較的短期間の斜面水文動態の変化を掌握し、主観的な防災・減災対策が行われます。しかし、モニタリング対象が広範な場合や費用対効果の観点では、このような手法は非効率的です。リアルタイムでの崩壊の「発生時刻の予測」に到達できていない大きな原因は、 斜面の水文環境の変化を簡易に把握できる手法が未だに開発されていないところにあります。

  近年、「岩石・土層の砕」「地下水流の変動」「地盤の抵抗変化」などの地下環境の変動は、地盤破壊に伴う電磁気現象の発生原因になると指摘されており、これを地震発生の予測に利用しようという試みも開始されています。降雨時の斜面崩壊も同様に地下水流による地盤の破壊・移動現象であるため、破壊をもたらす環境変動のモニタリングに対しても、電磁気現象の把握が有効になる可能性があります。
              
             室内降雨崩壊実験(森林総合研究所の施設を利用)

【4】流域物質循環に及ぼす腐植物質の役割と重要性


日本のとある一般的な森林の渓流水中に含まれる金属元素(Na, Mg, Ca)は、全流出量(イオンや化合物をすべて含む)の半分近くが化合物として流動していることが、当研究室の観測で新たに判明しています。これらの金属は、通常、淡水中ではフリーイオンで存在すると考えられてきたのですが、実際には、半分程度が粘土鉱物、腐植物質、有機酸などに吸着し、錯体として流動しています。その濃度はSiや腐植物質との相関が高いため、Na, Mg, Caは実際には半分程度が粘土鉱物やフルボ酸様物質(FALM)と錯体を形成しているものと考えられます。
 腐植物質であるフルボ酸は、渓流水中においては溶存態有機炭素(DOC)の60%〜80%を占めていると言われています。そのため、DOCを構成する他の物質(フミン酸、タンパク質、炭水化物、脂肪、シュウ酸、ギ酸、など)と比べても、流域での炭素循環だけではなく、イオン・重金属・放射性核種などの吸着・運搬にも重要な役割を果たしているものと思われます。
 金属錯体は、周囲の環境条件が変化すると吸着した元素を放出することがあり、水中の化学物質の濃度を変化させることが知られています。このようなことからも、流域での物質循環研究においては、有機物の存在下での化学物質の動態を十分に考慮することが重要です。



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